突然ですが、皆さんに質問です。
「介護をした人は遺産を多くもらうべきだ」——あなたはどう考えますか?
家族の誰かが介護に大きな役割を果たした場合、その貢献が遺産分割にどう反映されるかは、よく議論の的になります。
「公平」だと思う配分が、家族それぞれで異なるのは珍しくありません。そして、このズレがきっかけで兄弟姉妹間の関係が悪化することもあります。
今回ご紹介するのは、親の介護をきっかけに遺産分割が対立に発展した一つの事例です。このケースを通じて、以下のポイントについて考えていきます。
- 介護が遺産分割にどう影響するのか
- 家族間の「公平」の捉え方の違い
- 相続トラブルを未然に防ぐための具体的な準備
相続は、家族の絆を深める場でもあれば、壊してしまう場にもなり得ます。
この記事を通して、皆さんのご家庭でも生じるかもしれない課題に備えてみませんか?ぜひ最後までお読みください。
介護の負担をめぐって争った兄妹のエピソード
介護をしていた母親が亡くなった
介護をしていた母が亡くなり、遺産分割の話し合いが始まりました。
同居して介護をしていた長男と、別居していた次女の間で、意見が対立し始めます。
介護をした人が遺産を多めにもらうべき?
長男は「介護の苦労を考えれば、遺産を多めにもらうのが公平」と主張。
一方、次女は「長男は母の年金や実家の恩恵を受けていたのだから、遺産は均等に分けるべき」と反論します。
次女は別居していましたが、母の通院費やヘルパー代を負担していました。
弁護士を介した調停にすすむことに
兄妹の信頼関係には次第に大きな溝が生まれました。当事者間での解決が難しく、弁護士を介した調停へと進むことになります。
弁護士の調停により、長男が実家を相続する代わりに次女へ代償金を支払う形で合意。介護と金銭的支援の両方が考慮された分割内容となりました。
公平に相続する3つのポイント
遺産分割での「寄与分」や「代償分割」を正しく理解することは、対立を防ぐ鍵になります。
特に、介護を担った相続人への評価や金銭補填の仕組みを知ることが重要です。以下で具体例を交えて解説します。
感情対立を解決できなくなったら、第三者に入ってもらう
今回の事例だと
- 長男が介護の負担をしていた
- 母親からの年金や家賃といった生活援助があった
- 長女から金銭なサポートがあった
という点が、公平な相続を難しくして感情的な対立の原因となっていました。
一度争いや対立がおきてしまうと、当事者だけで解決するのはとても難しい。
こういった場合は、客観的な第三者が入ってもらうのがスムーズです。
というか、第三者の価値というのは、当人に代わってフラットに利害を調整することです。
積極的に頼っていきましょう。
今回のケースだと、家庭裁判所で調停委員が双方の主張を整理し、公平な調整を行います。
調停で解決しない場合は、審判や裁判に進みます。
長引く裁判は費用・時間がかかります。
「裁判には入らない」「調停での解決が最もスムーズ」であることを理解しておきましょう
介護の労力は金銭的価値に変換される
母親への長男の献身的な介護は、どう評価されるのでしょうか。
裁判では、介護による貢献を金銭に換算して評価することが一般的です。
たとえば長男の介護の苦労は、削減できた費用(例:ヘルパー代)として変換されます。
実際には、5年間介護して寄与分200万円が認められた事例もあります。
「介護の労力は金銭的価値に変換される」と覚えておきましょう。
ここで大切になるのが記録です。
母親の介護の詳細や時間の記録を残しておくと、正確に価値を評価してもらえます。
財産の種類によって柔軟に分割方法を選べる
代償分割とは、一方が不動産など物理的財産を相続し、他方には金銭補填を行う方法です。
たとえば、実家評価額2000万円、その他財産1000万円の場合、
- 長男: 実家を相続(2000万円)
- 長女: 現金1000万円+代償金500万円
といった形で、長男から長女に代償金500万円を支払うことで相続は公平になります。
財産の種類によって柔軟に分割方法を選べる点を知っておきましょう。
あなたにも関係あるかもしれません
「相続なんてまだ先の話」と思うのは当然ですし、「自分には兄弟がいないから関係ないや」と感じるかもしれません。でも、親が介護を必要としているときや、自分自身が日々忙しく過ごしているときに、相続の話を切り出すのはとても難しいものです。そして、親も「元気なうちは遺言なんて必要ない」と考えていることが多いでしょう。
しかし、いざ親が亡くなったとき、その準備不足が原因でトラブルに巻き込まれることは珍しくありません。兄弟がいない場合でも、親族や第三者が意見を求めてくる場面があり、すべての意思決定を自分が担うことになる可能性があります。そんなとき、何も準備していないと、感情的な負担や時間の浪費が避けられなくなります。
だからこそ、まだ時間がある今、「もしものときにどうするか」を考えることは、親への思いやりでもあり、未来の自分を助ける行動です。この事例をきっかけに、「自分の場合はどうだろう?」と少しだけ立ち止まって考えてみませんか?それがきっと、後悔しない選択につながります。