突然ですが、皆さんに質問です。
「遺言があれば相続トラブルは防げる」——そう思っていませんか?
実は、遺言を残しても、家族間で対立が生じてしまうケースは少なくありません。特に不動産の評価方法をめぐるトラブルは、身近な家族関係を崩壊させる大きな要因の一つです。
今回ご紹介するのは、不動産相続が引き金となり、兄弟間で深刻な対立が生まれてしまったある家庭の実例です。生前の合意不足や評価基準のズレが、思わぬ争いを招いてしまったのです。
この記事を読むことで、以下のポイントについて知ることができます。
- 不動産相続で起こりがちな問題とその背景
- 「公平」をめぐる家族間の認識の違い
- トラブルを未然に防ぐための準備と対策
家族の和を守るためには何が必要なのか、一緒に考えてみましょう。ぜひ最後までお付き合いください。
相続額の500万を兄に奪われた話
父が亡くなり、相続の話へ
父が亡くなるまで、次男は家族に特別な不満を感じていませんでした。
兄が家を継ぐべきだという父の意向や、生前贈与された不動産の価値が3,000万円だという話にも異論はありませんでした。
しかし、遺産分割の話し合いが進む中で、兄の態度に変化が生じ、次男の中に違和感が芽生えました。
突然の兄の主張
相続の話し合いで、兄が突然「不動産の評価を路線価で行うべきだ」と言い出しました。
それまで家族の共通認識だったのは「時価」での評価。生前贈与された不動産も時価3,000万円で進められていました。
しかし兄が路線価4,000万円を主張し始めたことで、遺産総額が9,000万円と見積もられ、次男が受け取る現金が本来より500万円も減ることに。
次男にとって、この変更は受け入れがたいものでした。
兄弟の間に大きな溝が…
次男の主張はシンプルです。「不動産も現金も公平に評価されるべきだ」というもの。
不動産の現在の時価5,000万円に基づく分割が公平だと訴えましたが、兄は路線価を基準に有利な条件を押し通そうとしました。
この意見の対立は、兄弟間の信頼関係に大きな溝を生む結果となりました。
公平な相続だったのか?
父が遺したものは「公平」を願う思いだったと信じる次男。
相続の場で兄が基準を変え、自らに有利な形で進めようとする行為は、父の意思に反していると感じました。
「もし本当に公平だというなら、生前にその基準を示すべきだったのではないか」と、次男は心の中で問い続けます。
なぜ次男は500万も相続額が減ってしまったのか?
相続トラブルの原因は、「不動産評価のズレ」による家族間の認識の違いです。
不動産と現金の分割は一見シンプルに思えますが、評価基準が曖昧なままだと争いが起きやすいもの。
このケースでは、不動産の評価基準が「時価」と「路線価」で食い違い、兄弟間の対立が生まれました。
相続では「路線価」での評価が一般的
不動産の評価方法は「時価」「路線価」「固定資産評価額」の3つが一般的です。
時価は市場の取引価格、路線価は相続税や贈与税の基準、固定資産評価額は固定資産税の算出基準。
目的に応じて使い分けるため、それぞれ評価額が異なり、相続の場では選択が重要になります。
このケースでは、生前の不動産評価は「時価」で進められていました。
不動産の価値は当時3,000万円、現在では時価5,000万円。しかし、相続の場で兄が「路線価4,000万円で評価すべきだ」と主張。
結果、遺産総額が9,000万円となり、次男の受け取る現金が本来より500万円も減る事態に。不公平感が対立を招いたのです。
不動産の評価方法、3つもあるのはなぜ?
不動産評価方法が複数存在する理由は、不動産が「唯一無二」の資産だからです。
同じエリアの土地でも立地や形状で価値が変わります。
また、評価基準はそれぞれ目的が異なり、市場取引を重視する時価、課税基準の路線価、地方税基準の固定資産評価額と使い分けられます。
大切なのは話し合い
相続トラブルを防ぐには、「生前の合意形成」「評価基準の明確化」「第三者の仲介」が鍵となります。
評価基準が曖昧なままだと、話し合いの段階で家族間の不満が噴出するリスクが高まります。
遺産分割は「公平性」が重要ですが、それには基準を共有しておくことが欠かせません。
今回のケースも、生前の段階で「不動産をどう評価するか」を家族全員で話し合い、共通認識を持っていれば、トラブルは避けられたかもしれません。
弁護士や不動産鑑定士など専門家の協力を得て、事前に評価基準を定めておくことが最善の解決策といえます。
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「遺言があれば大丈夫」「路線価を使うのは一般的」――そう思っていませんか?今回のケースでは、父親がきちんと遺言を残していました。そして長男も、相続の評価基準として一般的に使われる「路線価」を採用しました。それなのにトラブルに発展したのです。
公平に分けるはずだった遺産が、かえって「公平とは何か」を巡る争いを生む。これが相続の怖いところです。長男からすれば「税法に基づいた正しい方法」と思っていた評価が、次男からすれば「自分に不利な不公平な手段」に映る――このように、ルールを守っていても解釈の違いが不満を生み、関係が壊れてしまうことがあるのです。
「うちは遺言があるから大丈夫」「評価方法は決まっているから安心」などと考えている方ほど注意が必要です。相続は、ルールを守るだけでは解決できません。事前に「家族間でどう受け取られるか」を考え、全員が納得できる基準を共有しておくこと。それが、後悔しない相続のために最も重要な準備です。